この巨石の石材は安山岩で、与四兵衛山山中にみられる巨石の一つです。現在石は下が土中に埋まるが、大きさは長軸1.86m短軸1.45mで、南端が6箇所の電動ドリル跡で割り取られており、原形はさらに長かったことがわかります。残石は行方不明です(写真1)。 |
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写真1 公卿石と岡田保造氏 |
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石の上面は自然面で、1.40m×1.10mの平坦面上いっぱいに、複数の線刻が分布します(図2)。 |
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線刻は、明瞭な格子(升目)を表現するもの6箇所のほか、平行線のみのもの、不明瞭なものなどが数箇所認められます(図3)。最も明瞭なものは、縦5本横5本の太い線による格子を描き、これで区画された4升毎に、角を対角に結ぶ×印を加えます。この4×4升目全体の大きさは、12.5cm×12.5cm、升目は1辺3.1cmです。 |
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図2 公卿石上面の線刻 |
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図3 公卿石上面の線刻拓影(4×4升目) |
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岡田保造大阪成蹊短期大学名誉教授によれば、西インド・ムンバイ北東の紀元前1世紀から紀元7世紀の石窟寺院群のうち、ナシク仏教石窟・エローラ石窟に、インドの伝統的な双六であるパチシの盤のゲーム盤形が彫られます。またイラン南部の紀元前6世紀ペルセポリスの巨大宮殿遺跡に3種のゲーム盤が彫られています。これらの刻文はゲーム盤と考えられます。 |
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升目は魔よけの意味をもつといわれ、セネトなど升目のゲーム盤がエジプト古代王朝期の墓室の壁画に描かれたり副葬されたりしています。古代メソポタミアにおけるゲーム盤のはじまりは祭具や占具であったといわれ、セネトの升目に描かれた象形文字や画像は、神や護符を表すともいわれます。またクルナの神殿には魔よけの符である五芒星も彫られています。ゲーム盤形の刻文は、仏殿や宮殿の安泰と悪霊(敵)が侵入しないよう願ったものと考えられます。 |
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日本においてもゲーム盤状刻文が存在します。岩手県平泉町の達(たっ)谷窟(こくのいわや)階段に5×2の升目が長方形に彫られます。神戸市北区有馬町瑞宝寺公園内に「石の碁盤」があります。45cm×42cmで、江戸時代以降現代に至る一般的な木製碁盤の大きさです。碁盤は、盤面にある9個の星を中心にして36升目(6×6)ずつ9分割出来ますが、これは魔よけの呪符である九字を表す三方陣の形で、碁盤が呪具として用いられています。 |