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金粒子付着椀型坩堝(きんりゅうしふちゃくわんがたるつぼ) (願海寺城跡)
 

 
願海寺城跡は16世紀中頃、国人・寺崎氏の居城であった平城です。
平成22年度の下水道工事に伴う工事立会の際に堀から坩堝が2点出土しました。平成25年度に金沢学院大学中村晋也准教授に坩堝の付着物の分析を依頼し、1点の坩堝から金粒子の付着を確認しました。もう1点からは銅、錫、鉛の付着を確認しました。このことから、願海寺城内において金メッキ製品の製作、青銅合金などの合金製作を行っていた可能性が高いです。
 
金粒子が付着した坩堝は、直径4.8cm、高さ2.25cmの比較的小型の坩堝です。
蛍光X線分析の結果、付着した金粒子にはビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)、鉛(Pb)、ヒ素(As)、テルル(Te)などの不純物を含まないことから、砂金由来の金である可能性が高いと考えられます。
金粒子付着椀型坩堝
金粒子拡大
 
金粒子が付着した遺物が確認できる遺跡は、図1に示すように武田氏の居館である武田氏館跡(山梨県甲府市)や北条氏の居城である小田原城跡(神奈川県小田原市)などの戦国大名の居城やその城下町、堺・博多などの大商業都市、そして金山です。
全国でまだ29遺跡しか確認されておらず、富山県では願海寺城跡の1例のみで、県内初の事例です。北陸地方でも、七尾城跡(石川県七尾市)、一乗谷朝倉氏遺跡(福井県福井市)の2例のみです。
図1 室町時代から戦国時代の金・銀生産遺物確認遺跡(※)
2021.7.14文化庁プレスリリース「【国立科学博物館】青森県聖寿寺館跡で
はじめて確認された貴金属製品の生産について」図10を改変
 
全国的に見て、願海寺城跡のような国人クラスの居城で金粒子付着遺物が確認されることは極めて珍しい事例です。
戦国時代に国人クラスまで金属生産技術が伝播していたことは、国人クラスの技術レベルを探る上でも重要です。
(堀内)
 
用語等解説
●国人
南北朝時代から戦国時代にかけて、各地の村落に住み着いた有力武士。荘官・地頭などが地方に土着して領主層に成長したものが多い。中には毛利氏のように戦国大名まで成長した国人もいます。
●坩堝
金属などを入れて加熱し、溶解・高温処理などを行う耐熱性の容器。金属を溶解させて合金も作られます。中世では主に土製で造られています。


 
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