国立科学博物館便り(14) 2014年7月

近隣諸地域集団との類縁関係の検討(3)
-考察編-
 
便り(12)便り(13)の事実に基づいて、縄文時代人の祖先の日本列島への移住・拡散について試行的な考察を行なった。

日本列島へのホモ・サピエンスの渡来に関する形質人類学(言わば、ヒトの生物学)的な仮説には諸説あるが、筆者の最近の考え方は以下のホームページに書いてあるので、そちらをご覧戴きたい。ここでの試行的な考察も、そのような背景の中で行なわれた。
「日本列島へのホモ・サピエンスの渡来経路の筆者の仮説」
http://www.kahaku.go.jp/research/department/anthropology/report02/index.html
縄文時代人の祖先の日本列島への移住、拡散についての試行的な考察
まず、縄文時代以前に東南アジア新石器−鉄器時代人に似た人々がアジア大陸を北上して安陽青銅器時代人に似た人々になり、さらに北上、東進、南下して北海道に入り、北海道の縄文時代前期個体、北黄金K13 のような縄文時代人になった。
一方で、縄文時代前期までに、山陽縄文時代中・後・晩期人に似た人々が南から東北地方にまで到達していた。
そして、北黄金K13 に似た人々が、やはり縄文時代前期までに、さらに南下して東北から北陸地方にまで至り、当地の縄文時代人になった。
ただし、この北方系の縄文時代人は、縄文時代前期の時点では、山陽地方にまでは到達していなかった。縄文時代前期の山陽地方には東南アジアの新石器から鉄器時代人に似た人達が住んでいた。
 
以上のような推測は、次の便り(15)のミトコンドリアDNA分析の結果とも矛盾しないが、あくまでも、わずか1個体の標本に基づく仮説的な筋書きであることに注意を要する。
 
科博・名誉研究員 溝口優司