国立科学博物館便り(12) 2014年7月

近隣諸地域集団との類縁関係の検討(1)

2008年に発見された縄文時代前期の女性頭蓋である小竹貝塚1号人骨と、下記の集団との類縁関係を、頭蓋計測値に基づく典型性確率(typicality probability以下、T.P.)によって検討した。
典型性確率とは、ある個体が比較しようとする集団でどのくらい典型的かを確率として示すものであり、100パーセントに近いほど典型的と言える。
類縁関係の検討集団 頭蓋計測項目数
東北地方の縄文時代中・後・晩期人集団 12項目
関東地方の縄文時代中・後・晩期人集団 12項目
東海地方の縄文時代中・後・晩期人集団 12項目
山陽地方の縄文時代中・後・晩期人集団 12項目
中国北部の安陽青銅器時代人集団
(青銅器時代=縄文時代晩期に相当)
10項目
東南アジアの新石器−鉄器時代人集団
(新石器時代後期〜鉄器時代=縄文時代後・晩期に相当)
9項目
オーストラリアのCoobool Creek 更新世後期人集団 6項目
 
小竹貝塚1号人骨と縄文時代中・後・晩期人集団
小竹貝塚1号人骨は、12変数に基づく日本列島4地方(東北・関東・東海・山陽)集団との比較では、東北地方の縄文時代中・後・晩期人女性集団に最も近いことが示された。典型性確率は82パーセントで、他の地域の縄文時代人集団に比べると圧倒的に高い値である(表1)。
 
表1
 
縄文時代相当期の中国安陽青銅器時代人を加えた10 変数に基づく分析の結果でも、12変数の場合と同様に小竹貝塚1号人骨は東北縄文時代中・後・晩期人女性集団に最も類似していた。ただし、T.P.は64パーセントとやや低い(表2)。
 
表2
 
縄文時代相当期の東南アジア新石器−鉄器時代人を加えた9変数に基づく分析の結果でも、12変数の場合と同様に小竹貝塚1号人骨は東北縄文時代中・後・晩期人女性集団に最も近かった。ただ、T.P.は57パーセントと低い(表3)。
 
表3
 
以上のように、小竹貝塚1号人骨は、12、10、9変数の3つの分析全てにおいて、東北地方縄文時代中・後・晩期人の女性集団に最も似ていることが分かった。そして、ここで扱った外国の集団に特に似ているという傾向はなかった。

科博・名誉研究員 溝口優司