国立科学博物館便り(13) 2014年7月

近隣諸地域集団との類縁関係の検討(2)

東北縄文時代中・後・晩期人女性集団と他地域縄文時代早・前期個体標本
小竹貝塚1号人骨が最も似ていた東北縄文時代中・後・晩期人女性集団に対して、他地域の縄文時代早・前期個体標本はどの程度似ているのかを見てみると、北海道の北黄金きたこがねK13(女性)[T.P.=91パーセント]と長野の湯倉ゆくら(女性)[T.P.=79パーセント]も、小竹貝塚1号人骨と同程度かそれ以上に類似していた(図1)。
図1.東北地方の縄文時代中・後・晩期人女性集団平均値から各個体標本までのD2距離
図1.東北地方の縄文時代中・後・晩期人女性集団平均値から各個体標本までのD2距離。
(T.P.は頭蓋計測値12項目に基づく典型性確率。)
 
北黄金K13と外国の縄文時代後・晩期相当期の集団
さらに、東北地方の縄文時代中・後・晩期人女性集団に最もよく似ていた女性個体標本、北黄金K13は、日本列島の中ではそうであったが、外国の縄文時代相当期集団も考慮に入れると、東北縄文人集団よりも中国の安陽青銅器時代人集団[頭蓋計測値10項目に基づくT.P.=98パーセント]や東南アジアの新石器−鉄器時代人集団[9項目に基づくT.P.=89パーセント]にもっとよく似ていることが示された。
 
●東北地方縄文時代前期個体標本と縄文時代中・後・晩期人集団
小竹貝塚1号人骨が最も似ている縄文時代中・後・晩期人集団がいた東北地方の、縄文時代前期標本である青森の古屋敷ふるやしき女性個体は、東北の中・後・晩期人女性集団よりも山陽の中・後・晩期人女性集団に似ていた[10項目に基づくT.P.=88パーセント]。
 
山陽縄文時代前期人と東南アジア新石器−鉄器時代人
青森の古屋敷女性個体が最も似ている縄文時代中・後・晩期人集団がいた山陽地方の縄文時代前期個体である岡山の羽島はしま2男性個体は、日本列島内の縄文時代中・後・晩期人集団よりもはるかに東南アジア新石器−鉄器時代人男性集団[9項目に基づくT.P.=76パーセント]に似ていた。ただし、北黄金K13とは違って中国の安陽青銅器時代人集団には全く似ていない[10項目に基づくT.P.=2パーセント]。
 
以上が、今回、小竹貝塚1号人骨の頭蓋について行なった統計学的分析の概要である。
 
科博・名誉研究員 溝口優司