富山城の割石技術
(3) 矢穴を彫る

石割は、石に矢穴を彫り、クサビ(矢)を打込んで割り、予定の大きさの割石を獲得する作業です。
矢穴は、石目と割りたい石の大きさによって位置を決定します。
矢穴の位置決めは、割り取りたい基準線を引き、その基準線上で割付して決定されます。
この基準線は、通常墨付けで行うとされていますが、それらは石割の過程で消え去るため墨が残っている例は少数です。
また細い基準線を彫り込むもの、矢穴列の両側のみに短い基準線を彫り込むものがあり、富山城では短い基準線タイプが1例のみ見つかっています。
また、基準線に沿った矢穴の割付順序がわかる例が富山城で1例あります。それによると、まず矢穴の間隔を決める短辺側にノミで筋をつけます。その長さは約4.5cm(1寸5分)です。矢穴の間隔は9cm(3寸)と10.5cm(3寸5分)の間隔で決められたとみられます。

次に矢穴の長辺の1辺にノミで筋をつけ、次に残る長辺のもう1辺に筋をつけ、四角の縁取りが完成します。この縁取りは、短辺は1寸5分、長辺は3寸、3寸5分、4寸の3規格が存在します。

矢穴を彫り込む予定の場所が、斜めあるいは凹凸がひどかったり、ツルツルの自然面の場合には、矢穴が彫り込みやすいように平坦な面を作ります。この作業は「矢場取り」といい、ノミでハツリを入れたり、ゲンノウで小割などを行って作業平坦面を作ります。

矢穴の彫り込みは、まずノミでカタカナのロの字形に彫り下げていきます。順次下げていく過程で、中央に残った山は自然とはじけて取れます。表面に近い部分は石が弾ける面積が広いため緩やかに広がり、深くなるにつれ次第に穴は狭くなっていきます。

表皮部分の彫り取りが終わると、先端が平坦なノミに取替え、さらに深く彫ります。このときは細かく少しずつ彫り込む丁寧なノミ使いとしています。この作業により、矢穴の側面には平滑な面が完成します。矢穴痕を仔細に観察すると、砥石で磨いたような平らな面が確認され、これが丁寧に彫られた結果を示しています。

この平滑面に矢の側面あるいはせり金・せり金の代用とした竹製せり金の面が合わさり、矢が効くのです。ここに凹凸があると、矢が弾け、予定どおり割ることができなくなるので、この平滑面を完成させることが矢穴を彫り込む工程で最も重要な作業となります。

矢穴の底部が深くなるので、底面付近では細くて長いノミに取替え作業します。この段階での作業も細かく丁寧に行なわれます。矢穴の底面にはノミの先端の凹凸が残されたまま矢穴彫りは終了します。

富山城の矢穴は、角がいずれも丸く彫られており、第2段階の平坦なノミの使用が省略されていると考えられます。
(古川)
矢穴の割付
矢穴の割付