富山城の割石技術
(4) 石を割る1 矢を効かせる

完成した矢穴列には、それぞれの矢穴の大きさに合った矢が入れられます。

矢は矢穴に直接入れるのではなく、矢穴側面の平滑面に力がかかるよう、矢の両側に板を入れます。これをせり金といい、鉄製のもの、あるいはその代用として竹製のせり金を使用します。現存するせり金は、幅5cm、長さ10cm、厚さ3mm前後のものですが、竹製の場合は、割り竹を幅に合わせて切り、硬い表皮面を石側にして使用します。

次に、矢穴に入れられた矢の頭を、ゲンノウで順に打っていきます。このとき使用するゲンノウは、割り取りに使用するゲンノウと同形ですが、打面の中央が膨らんでおり、割り取り用のものと異なっています。

石目を割る場合と石目に直交する面を割る場合では、矢を打つ順序や力加減、スピードが異なるといいます。

特に角石など平面を広く取りたい場合や、奥深くまで平面としたい場合には、矢を打つ力をやや加減したり、順に強弱をつけて打つことにより、効かせる矢と補助的な矢を選びながら作業を進めます。その選択は、微妙な石の反発力・音などの違いを見分ける職人の熟練によるところが大きい。

そのようにして深く矢を効かせ、ジワジワ時間をかけて割っていくのがコツとされます。上手く仕上げるため1昼夜矢を効かせたままにし、それから割りに入る場合もあるといいます。

富山城で使われているような河川転石の場合は、川の中を転がって弱い部分が殺ぎ落とされてくるため、石の表皮が硬く、割る場合には反発力が大きくなります。一方内部はやわらかいため、一気に割ると内外面の違いでまっすぐに割れなくなる場合が多いので、注意が必要になります。同じ石でも割面から割る場合は、反発力が小さく割りやすい。

石質からみると、花崗岩のなかでも結晶が大きいものと、小さく均質なものがあり、後者が平らな面になりやすい。また硬い石質と軟らかい石質があり、硬いものが平らな面になりやすいといえます。
(古川)
矢穴
矢穴