修理工事
 
平成23年度に上屋を解体し、平成25年度まで長寿命化(耐用年数20年)に向けた修理工法を検討してきた第1号住居(複製)の修理を行いました。
 
 
 
 
 
第1号住居(複製)修理工事の視点と工夫
 
北代縄文広場の竪穴住居は、これまで黒土屋根で復元されてきました。第70号住居の発掘調査で出土した屋根土は赤土が主体でしたが、工事が容易であることを優先した材料選択でした。市内の弥生時代遺跡(打出遺跡)の焼却竪穴建物跡の発掘調査成果から、当時の人々は手が届く部分は除草し、手が届かない棟部分の土屋根は草が繁茂したことで黒色土壌化したことがわかっています。
 
平成23年度に上屋を復元した第13号住居(複製)では、従来どおり黒土で各種の長寿命化対策を講じました。その対策が効果を発揮しつつあることが確認されるなか、第1号住居(複製)の上屋復元は発掘調査効果に基づいて赤土で復元することを目的に、専門家会議での検討や実験結果を検討し、工法を開発しました。
 
黒土と比べて、赤土は表面排水に優れ、草が生えにくい特徴をもちますが、乾燥による亀裂が生じやすい特性があります。また、冬季には水分が凍結と融解を繰り返すことで屋根表層が崩壊することが実験の結果、明らかになりました。黒土屋根の場合は繁茂した草の根が崩落を防止しますが、赤土屋根の場合はこの効果を期待できません。発掘調査に基づいた赤土屋根を実現するため、次のような改良や工夫を加えて修理しました。
修理工事の詳細はこちら!
北代縄文通信 第40号(PDF、859KB)
 
 
1屋根土の軽量化とくずれ防止、排水機能の向上
道路斜面の法面(のりめん)補強の工事などで採用されている技術を応用することにしました。それが型枠の採用です。型枠に充填した屋根土を叩き締めることで、屋根土層の厚さ3分の2はくずれを防ぐことができました。これまでは屋根土層のすべてを黒土としてきましたが、それでは積雪期に相当の屋根荷重が丸太材にかかります。これを避けるため、大小さまざまな軽石を用いることで軽量化し、軽石や型枠のすきまを伝って屋根土層に浸透した雨水が排水されるように工夫しました。なお、第70号住居跡の発掘調査でも、赤土中に含まれていた礫はそのまま屋根土として使われたことがわかっています。
 
2屋根表層の亀裂発生防止
土屋根表層が冬季に凍ったり融けたりすることによって崩壊することは避けられません。これは日々の維持管理や補修によって対応すべき課題です。しかし、夏季等の乾燥期にも散水によってある程度表層が保水できれば、亀裂の発生を遅らせることは可能です。この観点から、表層には細い粒の軽石を混ぜ、そのすきまが保水することで表層の水分を保てるよう維持管理することとしました。
修理後の復元竪穴住居(建物)解説会 資料(PDF、951KB)
改良ポイント解説資料!
1 竪穴の湿気対策(PDF、571KB)
2 屋根の湿気対策(PDF、753KB)
3 屋根の排水対策(PDF、804KB)
4 屋根の軽量化策(PDF、1MB)
 
 
 
 
 
第8回専門家会議
(平成26年6月13日)
 
(1)第1号住居(複製)修理工事について―屋根試験体設置後の経過の検討―
梅雨期まで経過観察した屋根試験体の現状観察から、富山市産赤土よりも亀裂発生リスクが低い富山県小矢部市産の赤土に大小さまざまな軽石を混ぜた土屋根として復元できるとの判断に至りました。
 
(2)第13・70号住居の部分修理の追加について
修理済の第13住居(複製)と一部修理済の第70号住居で毎時計測している相対湿度の比較から、床下の防湿対策が長寿命化対策として有効であることを確認しました。これを受け、第13・70号住居についても床下の防湿対策を追加することにしました。
 
(3)整備事業報告書について
今後作成予定の報告書の内容(案)について検討しました。委員から、維持管理とは点検と保守から成り立つが、現状の案は「点検」が抜けており、点検結果とその後の補修対応をマニュアル・フローとして提示する必要があるとの指導をいただきました。
 
 
 
 
 
第9回専門家会議
(平成26年12月1日)
 
修理工事中の第1号住居(複製)を視察し、委員から指導をいただきました。また、整備事業報告書作成に向けて、委員の専門分野の論点を確認し、情報共有しました。
 
(1)第1号住居(複製)修理工事について
浸透する雨水への対策について、将来のリスク軽減という視点を重視するか、竣工(修理)当初の景観を重視するかという問題がある。前者を重視して地表から砂利暗渠層を設ける場合は、周辺と極力調和する資材を選定すべきであるとの指導をいただき、施工に反映させました。
 
(2)整備事業報告書(専門委員分野)の論点骨子について
鉱物科学
地山土壌の叩き効果は建築学・工学から指摘されているが、鉱物科学からも正しい。
長寿命化のためには維持管理を継続的に行うことが重要で、施設の性格上は来場者への歴史教育効果にも十分配慮して、各種実験結果から推定できることも積極的に還元すべきである。長寿命化一辺倒の視点だけではよくない。長寿命化には事前対策と不具合が生じたときに行う対応(補修)が必要である。
 
木材物理学
史跡整備では水や湿気への対策が重要で、土間叩きや防水・防湿シートの敷設もその一つであることが、建物内外の温湿度観測結果からも裏付けられている。維持管理が重要である。
 
考古学
報告書では、基本理念や基本方針について、事務局としての提示が必要である。可視部分について、資材選定・材加工等に関する考古学的知見と施工実態の整合性、考古学的知見を超える場合にどこまで許容するか、その選定理由等も報告書に明記すべきだろう。気象等の環境条件も提示する必要がある。