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『萬延二辛酉略暦』 |
八百屋松之助 万延(まんえん)2年(1861) |
これは「新版錦絵卸所」の八百屋さんが出した引札(ひきふだ)です。引札とは現在の広告ちらしのようなものです。お正月頃に得意先などに配ったものでしょうか。暦入りで、その上の絵も宝船に乗った七福神というおめでたい図柄になっています。(絵は富山の絵師 松浦守美(もりよし)によるものです。) 左に「富山西町御高札前」と書かれているように、八百屋さんは西町(現 富山市西町)で商売をしていました。 右に「帳面類 京都針 新版錦絵卸所」と書かれており、帳面・針・浮世絵版画等の卸をやっていたようです。特に、富山は売薬業が盛んであったため、錦絵、つまり売薬版画等も扱っていました。 また、八百屋さんは版画の出版元もしており、店の商標(井桁に‘松’字)が刷り込まれた売薬版画もたくさん残っています。 |
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売薬版画とは、売薬商人が"薬のおまけ"として得意先に配った、代表的な品物です。富山の職人によって富山で刷られていた、というのがその特徴のひとつです。が、売薬版画の初期の段階では、江戸で製作販売されていた浮世絵をもとにしたものが刷られていました。今回はそのような江戸の浮世絵と富山の売薬版画を、同時にみていくことにしましょう。 |
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これは歌川広重の『東海道五十三次』の「関」の作品です。左右の2枚をよく見比べてみてください。図柄が少し違うのがおわかりになるでしょうか。両方とも確かに、左下に「廣重(ひろしげ)画」と署名されているのですが…。 |
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この2作品、左が江戸で刷られたもので、版元は佐野屋喜兵衛です。右は富山で刷られた売薬版画で、右下に富山の版元 栗山屋の商標(入り山形に‘三’字)にが刷り込まれています。 |
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この2作品も同様に、よく比較し、図柄の異なっている点を見つけてみてください。 『東海道五十三次』の内の「桑名」の場面ですが、左は歌川国貞の作品で、版元は佐野屋喜兵衛です。右は富山売薬版画として刷られたものです。表紙で紹介した八百屋の商標が見え、また前回号で紹介した松浦守美(まつうらもりよし)(応真斎と号し、国美・国義・守義などと名乗った)の署名も見えます。 |
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売薬版画は絵師 松浦守美(まつうらもりよし)の登場により、さまざまな図柄が描かれるようになりました。守美は、江戸版の版画の構図そのものをまねるだけではなく、一工夫して売薬版画に活用しました。 右の守美による売薬版画を見てください。この絵は下に挙げた歌川広重『東海道五十三次』の「草津」「藤澤」のそれぞれのある部分を抜き出して描いています。 |
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下の売薬版画も、広重の浮世絵のある部分を描き出した例です。左は歌川広重『東海道五十三次』の「沼津」の作品です。右は松浦守美の売薬版画の「沼津」です。 |
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守美が描いた売薬版画の「沼津」は、広重のものと比べて、かなりお城やその前の松の木が大きく描かれています。富士山とお城の間も狭まっています。このように守美は、江戸版の作品の一部を抽出したり、また主となる部分だけを凝縮させたりして、売薬版画の下絵を作成していったのです。 |
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次の段階では、守美(もりよし)は絵を組み合わせる手法を用いています。(3)は広重の『東海道五十三次』の「岡崎」の場面ですが、これを模したものが国貞の「岡崎」(1)・富山売薬版画の清水屋版(5)です。そして国貞の構図をまね、さらに広重の『東海道張交図会』(2)より牛若丸を取り入れたのが、守美の描いた売薬版画の「岡崎」(4)です。 | (1) | (2) |
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(3) | (4) |
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売薬版画は絵師 松浦守美をはじめ、彫師・刷師など富山の職人が、江戸の浮世絵を取り入れることによって、絵の内容の幅を広げていきました。またその版画が売薬商人の手によって各地に配られることで、江戸文化の一端を地方へ届けていたこととなるのです。 | |
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<この記事の詳しい内容は、特別展『富山の刷りもの』の図録に載っています。> |
(歌川広重『東海道張交図会』は『―天保懐宝道中図で辿る―広重の東海道五拾三次旅景色』、(堀晃明著 人文社)より引用。歌川広重・国貞の『東海道五十三次』は太田記念美術館より、富山売薬版画は富山市売薬資料館よりそれぞれ借用したもの。) |
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