a.貝類 |
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サザエの蓋が1点、巻貝が8点、二枚貝が5点あるが、いずれも破片である。巻貝は殻頂部や殻底が残るものと、殻長1mm位の超薄質のものとがある。二枚貝のうち1点は表面に真珠光沢が残るが、他は主歯や筋肉付着痕等が保存されていない。いずれも、詳細は不明である。巻貝及び二枚貝とも表面が摩滅しており、種までは同定は難しい。
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b.棘皮類 |
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ウニ類の殻の破片が1点同定された。焼けて灰白色となっている。詳細は不明である。
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c.魚類 |
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(1)ネズミザメ目 |
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歯が1点同定された。内側面の歯冠長が1.4mm、外側面の歯冠長が1.9mmを計る微小な歯である。主咬頭の他に側咬頭が1対ついている。このような側咬頭のつくタイプはネズミザメ目に多いが、種までは同定ができなった。本資料は熱を受けているとみえ、色調が変化している。
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(2)ガンギエイ科 |
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微小な歯が2点同定された。歯冠の基底は円板状で、咬頭は細く高く、かつ舌側へ湾曲している。根尖は両方とも短く太い。このような特徴は、Rajidaeのものである可能性が高い。
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(3)エイ目 |
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尾棘が1点同定された。基部の破片でその最大幅は7mmである。背面には数条の深い溝が走り、両側縁には細棘がある。尾棘をもつエイ類には、ヒラタエイ科、アカエイ科、トビエイ科、ウシバナトビエイ科があるが(益田他1984年)、種までは同定できなかった。なお、尾棘基部は自然の状態であり加工した痕跡はないが、先端側の割れ口は摩滅している。
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(4)軟骨魚類 |
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椎体の完全なものが34点と破片が8点ある。破片の中で、縦に割れた椎体断面を観察すると、その模様に2種類がある。また、椎体径と椎体長との関係では、後者の方が長いタイプと短いタイプの2種類がある。上述のネズミザメ目やエイ目のものであろうか。おそらく複数種の軟骨魚類の椎体を含んでいると思われる。
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(5)マイワシ |
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環椎が6点、第2腹椎が4点、腹椎が168点、尾椎が43点同定された。真っ黒に焼けている骨もあるが、保存状態は極めて良い。
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(6)ニシン科 |
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本科に同定したものの中には、マイワシに似るタイプとマイワシと若干異なるタイプのものがある。腹椎が10点、尾椎が3点、腹椎か尾椎かの区別ができなかった椎体が8点ある。
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(7)カタクチイワシ |
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環椎が9点、腹椎が232点、尾椎が200点、椎体が3点と、ニシン目の中では最も多く同定された。真っ黒に焼けている骨もあるが、マイワシやニシン科と同様、微小な骨ながら神経棘や血管棘の残るものもあり、全体として極めて良く保存されている。
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(8)アユ |
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腹椎が5点と尾椎が21点同定された。尾椎には、焼けている骨が含まれている。
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(9)サケ科 |
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遊離した歯が5点と椎体のほぼ完全なものが1点、同破片が103点同定された。歯のうち1点は強大で鋭い歯を持ち、歯冠部が強く咽頭方向に湾曲している。完形の椎体は多孔性で微小孔が多く、神経棘と血管棘の付着部分に大きな凹みがある。横径が9.7mm、縦径が8.9mm、長さが6.8mmである。椎体破片は大部分が細片となっている(図版1−5)。これらの歯や椎体には、焼けて黒色あるいは灰白色に変化しているものもある。他の魚類の焼け方に比べ真っ黒に焼けた骨が多いようであるが、焼けていると判断した破片の中にはあぶった程度に若干色調の変化したものもあり、焼けていない破片との区別は難しかった。椎体の模様はシロザケに似るが、他のサケ科の現生標本と比較していないため属名までは同定できなかった。
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(10)フナ属 |
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主上顎骨は右1点、歯骨は右7点左2点、咽頭骨は左2点不明1点、遊離した咽頭歯は125点(フナ属?の4点を含む)、主鰓蓋骨は右4点左2点、頭部を構成する骨の破片は5点、第1鰭条は23点、フナ属?と思われる椎体は11点同定された。他に鰓蓋骨あるいは頭部骨の破片も多数ある。歯骨には歯骨長(左右顎骨の接合面から烏口突起の先端までの長さ)が3.8mmから16mmまでの個体があり、現生標本との比較からこれらの体長は5cm前後以上と推定される。右上顎骨も同じ大きさの骨があることから、フナ属には未成魚も含まれている。鰓蓋骨や頭部骨は表面に顆粒状の突起が並び、フナ属の特徴を有している。また鰭棘は背鰭あるいは臀鰭の第1鰭条で、後縁に鋸歯を具えており、表面には細い条溝が多数ある。この鰭条の中には非常に小型のものがあり、主上顎骨や歯骨の小型個体と同じサイズのものかと思われる。これらの中には焼けている骨を含んでいる。
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(11)コイ科 |
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主上顎骨は左1点、歯骨は右5点左7点、咽頭骨は右14点左10点不明4点、主鰓蓋骨は右1点、第1鰭条は19点、椎体は7点同定された。これらの中には歯骨長が4mm以下のものや咽頭骨長が4mmのもの、第1鰭条の最大長が3.3mmのもの、椎体長も1mm位のものを含んでいる。このことから、フナ属と同様、これらには推定体長が5mm前後の未成魚が多いと推定される。
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(12)スズキ科 |
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主上顎骨は右1点左2点、歯骨は右2点左2点、主鰓蓋骨は破片1点が同定された。歯骨高を計測すると、6.4mm、9.2mm、10.2mm、11.5mmである。
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(13)マアジ |
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歯骨は右1点左2点、腹椎は14点、尾椎は29点(うちマアジ?3点)、尾鰭前椎体は1点、マアジと思われる稜鱗は181点、臀鰭第1・2棘と第1近担鰭骨が連結したものは3点同定された。須田(1991)を参考にすると、椎体としたものは腹椎の第3または第4のいずれかに属するものが1点、第5か第6腹椎が6点、第7から第10にはいるものが7点、尾椎の第1から第5までのものが11点、第6から第9までが7点、第10?と思われるものが1点に分類される。
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(14)クロダイ属 |
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前上顎骨は右4点左1点、主上顎骨は右2点、歯骨は右3点が同定された。計測可能な骨はない。
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(15)マダイ |
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前頭骨は完形3点破片5点、上後頭骨は7点(うちマダイ?1点)、前上顎骨は右11点(うちマダイ?1点)左11点(うちマダイ?3点)破片3点、主上顎骨は右1点、歯骨は右12点左6点が同定された。
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(16)タイ科 |
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多くの部位骨が同定された。すなわち、前上顎骨は右7点左2点不明1点、主上顎骨は右破片2点、歯骨は右1点、遊離歯は1980点、角関節骨は右3点、方骨は左2点、舌顎骨は右2点、口蓋骨は右3点左1点、前鰓蓋骨は左1点、主鰓蓋骨は右1点、上神経骨は1点、背鰭第1棘と近担鰭骨が鎖状に連結したものは1点、腹鰭第1棘は右5点左2点破片4点、鰭棘は48点、環椎は1点、腹椎は5点、尾椎は23点である。これらの骨は、おそらくクロダイ属やマダイに帰属すると思われるが、属や種の区別はできなかった。
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(17)ベラ科 |
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顎骨が1点同定された。この骨は顎の前部に犬歯を2本持つが、1本は大きな歯で前方に突出し、1本はやや離れその先端は後方に湾曲する。このような顎の形態はベラ科の特徴であるが、属および種は不明である。
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(18)サバ属 |
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歯骨が左3点、腹椎が6点、尾椎14点、椎体破片が2点ある。
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(19)カツオ |
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腹椎が1点と尾椎が3点同定された。
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(20)コチ |
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前上顎骨の右が1点と環椎が1点あるのみである。
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(21)カワハギ科 |
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上顎や下顎にある外裂歯と内裂歯が10本同定された。なおカワハギ科は上顎に3本の外裂歯と2本の内裂歯が、下顎には3本または2本の歯がある。
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(22)フグ科 |
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顎骨が16点同定された。前上顎骨か歯骨かの区別はできなかった。
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d.両生類・爬虫類 |
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(1)ヒキガエル |
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仙椎が1点同定された。ヒキガエルはかなり大型で、他種の骨と容易に区別できる1)。ヒキガエルと同定できたのは、この1点のみである。
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(2)アカガエル属 |
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上腕骨が右4点左3点、仙椎が7点同定された。上腕骨で完形のものは、骨端が分離しており、若年個体であろう。アカガエル属の上腕骨は、肘頭痕が明瞭に見られることと、骨体の正中線上に滑車があることでアオガエル属と区別できる(野苅家1983から1984)。また、上腕骨の中には内側翼の発達した骨があり、これは♂と思われる。仙椎はアカガエル属の場合、椎体前面が凸状になることで区別できる。(野苅家1983から1984)。
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(3)アオガエル属 |
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肩甲骨の右2点左1点が同定された。アオガエル属の肩甲骨は、下肩甲稜が烏口突起の背面中央を走る点でアカガエル属と区別できる (野苅家1983から1984)。
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(4)カエル目 |
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烏口骨が左1点不明4点、同一個体と思われる。橈尺骨が左右2個体分と不明が3点、ふ(足へんに付)骨が左1点不明1点、大腿骨が不明1点、椎体が9点、指骨が3点、中手あるいは中足骨あるいは指骨が49点ある。橈尺骨には骨端の分離した骨があり、若年個体のものであろう。これらの骨の中には現生のアカガエルやヒキガエルに似る大腿骨や椎体があることから、上記したヒキガエルやアカガエル属、アオガエル属に含まれる体の骨であると思われる。
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(5)ヘビ目 |
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特徴のある椎体が2点のみ同定された。目以下の同定は困難である。
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e.鳥類 |
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左上腕骨と左脛骨、骨幹各1点、鳥類と思われる鎖骨、尺骨、骨幹の各1点がある。いずれも破片であり、また筆者には同定することが難しいため目以下の同定はできていない。
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f.哺乳類 |
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(1)ヒト |
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哺乳類の中では最も多くの遺存体が検出された。すなわち、中切歯が左1点、肩甲骨が左1点、上腕骨が左(?)右各1点、尺骨が右2点、腓骨が左右各1点、膝蓋骨が左1点、腰椎が1点、椎体が1点ある。さらに、手を構成する骨として右有頭骨、右第5中手骨、右母指の基節骨、左第4基節骨、左第2指中節骨、左第3指中節骨、右第3または第4指中節骨、左第4指中節骨、第5指末節骨、母指以外の末節骨が各1点同定された。他に手の指の末節骨が2点ある。足を構成する骨としては、左右第2楔状骨、左立方骨、左右第1中足骨、右第2中足骨、左第4中足骨、左第5中足骨が各1点と母指以外の末節骨が2点ある。これら以外に基節骨1点、中節骨2点、長骨片1点、ヒトと思われる小骨片1点と不明破片が3点ある。これらの骨の中で性別が確認できるのは膝蓋骨で、小型であることから女性の可能性が高い。また年齢の判明した骨は左上腕骨で、骨端軟部が分離していることから、未成年のものと同定された。
また、特筆されるのは上顎中切歯で、これはエナメル質がかなりすり減っており、咬耗度はブロカの分類の4にあたる。縄文人に良く見られる極端な咬耗である2)。今回検出されたヒトの骨は手足の骨が多いが、いずれも重複する部位骨がないこと、また左右の骨が揃っている第2楔状骨や第1中足骨の大きさがほとんど同じであることから、1体分の骨が含まれていると思われる。しかし、上腕骨の骨頭には、未成年のものとそれよりも大きい成年のものと思われるものがある。
今回採集されたヒトには、少なくとも2体分の骨があるようである。
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(2)テン |
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第1大臼歯が左右各1点同定された。左の臼歯長は11.6mmである。
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(3)タヌキ |
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下顎第3小臼歯(タヌキ?)と第4小臼歯の右が各1点、小臼歯の歯冠が1点、タヌキと思われる基節骨が1点同定された。
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(4)キツネ? |
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キツネと思われる下顎第3切歯の右が1点、左尺骨が1点ある。
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(5)イヌ |
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第3・4小臼歯と第1大臼歯の植立した上顎骨が右1点、この上顎骨と同一個体の上顎左第4小臼歯、左第1大臼歯が各1点、また上顎左第1大臼歯?、下顎第3小臼歯?の左右が各1点、下顎左第4小臼歯と下顎第1大臼歯の左右(同一固体)および下顎右第2大臼歯の各1点が同定された。なお、これらの歯の計測値は第3表のようである。同一個体の歯が多いこと、重複した歯が上顎第1大臼歯しかないことを考えると、ほとんどの骨が 同一個体に帰属すると考えられる。最小個体数は2個体であろう。
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(6)イヌ科 |
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頭頂骨の左1点と頭蓋骨の破片が70点ある。頭頂骨はイヌに似るが、頭蓋骨破片には厚い骨と薄い骨の2種類があることから、イヌや小型のテン、キツネ、タヌキが含まれている可能性がある。他に上顎右第4小臼歯が1点、小臼歯の歯冠破片が2点、イヌ科と思われる中手骨あるいは中足骨の遠位端が1点ある。
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(7)マイルカ科 |
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椎間板の小片が1点同定された。
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(8)イノシシ |
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イノシシと思われる犬歯の破片と、左上腕骨の遠位部破片が各1点同定された。犬歯にはエナメル質部分に、前後方向につけられた数条の浅い溝がある。また、割れ口の一端にも同様の溝がある。加工途中かあるいは製作過程で廃棄された残片であろうか。また上腕骨には、遠位部の突起上部に細い鋭い傷があるが、これは筋肉を取り外した際につけられた傷と推定される。
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(9)ニホンジカ |
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角の小片が3点と、脛骨遠位部の左右2点が同定された。右脛骨には、骨端の分離したものと骨端のみのものがある。なお左脛骨の1点には前面外側縁にイノシシと同様の筋肉取り外しと見られる傷が確認される。
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(10)ムササビ |
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ムササビと思われる上顎犬歯の破片が1点のみ同定された。
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(11)ハタネズミ亜科 |
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第1・2大臼歯が植立する右下顎骨と第1・2・3大臼歯の植立する左下顎骨が各1点、大臼歯が2点ある。下顎骨は破損資料であるが、おそらく同一個体と思われる。
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(12)ネズミ亜科 |
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門歯や大臼歯の脱落した左右下顎が各1点と大臼歯が2点ある。下顎骨は同一個体と思われる。大きさはMussp.に似ている。
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(13)齧歯目 |
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同一個体と考えられる上顎切歯が左右各1点とそれと別個体の右1点左2点、下顎切歯が左6点、不明1点、上腕骨が左右各1点、同一個体とみられる大腿骨が左右各1点(右は骨端が骨幹と分離する)、脛骨が左2点(うち1点は齧歯目?)、寛骨が左右各1点、腰椎が2点(1点は齧歯目?)、尾椎が6点、右第1中手骨?が1点、中手骨が1点、中手骨あるいは中足骨が2点、指骨が2点ある。これらの骨は同一個体の部位を含んでいることから、おそらくネズミ亜科やハタネズミ亜科に属すると思われる。
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