修理工事
 
高床倉庫の劣化した丸太材を取替え、茅を全面葺き替えました。また、第1号住居および第70号住居の屋根尻付近と透水管周囲の修理を行いました。
 
(1)高床倉庫修理工事の主な改良点
@ 屋根・妻壁
  富山県小矢部市産の茅を用いて、全面葺き替えました。使用量は従来の約3倍です。これまでの修理では山で刈り取った穂付きの茅を用いていましたが、今回は余分な葉を落としたすぐり茅を使いました。また、これまでと異なり、高密度で結束した茅束を順葺し、割竹やクリ丸太で茅束を押さえ、抜け落ちを防ぐ措置を講じました。
   
A 小屋組
  傷んだ屋根(茅)の隙間から浸み込んだ雨水により著しく腐朽した丸太材のみ、新しいものと取替えました。汚れを落としたうえで丸太材すべてに木材保存剤を塗布して耐久性を向上させました。
   
B 主柱
  水分を含んで木材腐朽菌の活動の影響を被りやすい地面付近は主柱表面が柔らかくなり、昆虫の食害を受けました。今回は食害の被害が大きかった2本のみを新しいものと取替えました。木材腐朽菌による影響から主柱基部を保護するため、土中埋設部分に防湿シートおよび銅板を巻きつけて養生しました。銅板は抗菌効果を期待した対策です。
これらにより、主柱基部表面が水に直接触れることが少なくなること、また触れたとしても抗菌効果が得られることを目指しました。
   
C 床下・周辺地形
当初は周りより5cm程高かった床下土間も、長年に及ぶ床板などの見学で地盤がえぐられ、周りよりも窪んでいました。ここに雨水が溜まって主柱周辺が湿潤になることを防ぐため、山砂を突き固めて高くし、水勾配を設けました。これにより、吹き込んだ雨水が周囲に流れ出し、透水管からすぐに排出され、排水性が向上しました。また、透水管周囲を砂利に換えて上面を浅く窪ませました。土壌化した周辺の造成盛土表層を漉き取って水勾配を設けることで、表面と地中の排水機能を向上させました。
  修理後の高床倉庫説明会 資料(PDF、544KB)
   
   
(2)第1・70号住居修理工事の主な改良点
これらは地下水位が高いところに位置しており、大雨の際は住居内で最も低い石組炉の底などから水が染み出すことが多々ありました。平成15、16年度の修理で土屋根の下に防水シートを設置して雨水対策を講じましたが、垂木尻までしか敷設しなかったために住居周囲の透水管から排出する前に住居内部へと染み出していることが今回の専門家会議での検討によって明らかになりました。
 
これを受けて、第1・70号住居の雨水排水機能を向上させるため、垂木尻から透水管まで防湿シートを敷設すると共に、透水管周囲の砂層を砂利層に変更しました。
 
修理工事の詳細はこちら!
北代縄文通信 第36号(PDF、712KB)
 
 
棟から垂木尻まで敷設されていた防水シートに連続させて防湿シートを追加したことにより、屋根土に浸透した雨水が透水管を経由して速やかに排水されることとなりました。また、透水管周囲を砂利層に換えたことで建物周囲の地下水の排出量も多くなりました。これらにより、建物内部への水の染み出し量は劇的に減少しました。
第1号住居の排水の改善状態
※大雨(1時間あたり最大降水量37.5mm)から約2時間後

第1号住居の排水の改善状態  
   
   
(3)第13号住居(複製)修理工事の主な改良点
屋根頂部には煙出し用の窓(南北2箇所)を備えた小屋根を設置しています。平成23年度の修理工事では床下や壁に防湿シートを敷設し、そのうえに土間タタキなどを行って地下水や湿気が地下から染み出さないように改良しました。これは同時に、屋内に水が浸入した場合は地下に浸透しないため蒸発しにくい状態になります。修理後の経過観察から、北−北北東または南−南南西で風速4m/s程度以上の風を伴う降水時に、天窓から雨水が吹き込む可能性があることがわかりました。
 
これを踏まえて、第1・70号住居と同じように、すぐり茅で天窓より一回り小さい草壁を製作して取り付けることとしました。これにより、煙出し用の隙間を確保しながら雨水の吹込みを防ぐことが可能となりました。
 
修理工事の詳細はこちら!
北代縄文通信 第36号(PDF、712KB)
 
 
 
 
 
木材劣化診断
 
平成16年度に市独自の修理を行った第70号住居を対象に、専門家(木材劣化診断士)による一次診断(視診、触診、打診、刺突し診)を行いました。
 
第70号住居の
診断結果
   
@ 垂木の地際部に腐朽が認められ、進行性のものである可能性がある。
屋根下部の濡れた樹皮に接する小舞が腐朽し、内部まで腐朽した材も認められた。
堰板には進行性の腐朽が著しく認められた。堰板外側の土も湿潤のため、平成16年度に追加した防水シートの下部に不具合が生じた可能性がある。
   
A 7本すべての地際部の腐朽が認められ、進行性の可能性がある。
   
 
< 修理工事での確認内容 >
木材劣化診断後に行った修理工事で確認できた範囲では、垂木尻付近の防水シートは一部で切れた箇所がありましたが、重ね部分のズレといった顕著な不具合は認められませんでした。樹皮が濡れていた範囲は、修理工事で屋根土を除去した部分より総じて高い位置にあるので、今回は確認できなかったと考えられます。修理工事後は、工事前後の屋内湿度を比較するなど、経過観察に努めています。
 
 
 
 
 
第5回専門家会議
(平成24年8月31日)
 
(1)高床倉庫修理工事について
事務局案を承認いただきました。
 
(2)追加工事の実施について
第1・70号住居- 屋根土内へ浸透した雨水の排水機能を向上させるための工事を行うこととしました。
第13号住居 -
(複製)
強風時に雨水が屋内に吹き込むのを防ぐため、小屋根の煙出し用窓に草壁を増設することとしました。
 
(3)第1号住居(複製)の屋根土について
平成23年度に上屋を解体し、平成26年度に上屋を復元する予定の第1号住居(複製)について、第70号住居の発掘調査成果に基づき、屋根土を従来の黒ボク土(赤土混和)ではなく、赤土主体のものに変更することとしました。資材や適切な配合比、施工法などは試験などを通じて検討することになりました。
 
(4)その他
第13号住居(複製)修理工事後の経過観察を行い、おおむね順調に推移していることが確認されました。また、今後予定している第1号住居(複製)の上屋復元に向けて課題の検討を開始しました。この他、復元竪穴住居の耐用年数について、事務局による当初提案の15年を20年に延ばすことを含めて再検討することとなり、事務局が20年と再設定しました。
 
 
 
 
 
第6回専門家会議
(平成25年3月6日)
 
修理工事を終えた高床倉庫と第1号住居、第13号住居(複製)、及び施工中の第70号住居を視察し、委員から指導を得ました。
 
(1)高床倉庫修理工事について
倉庫としてあるべき姿に復元できた。
床下地盤の山砂表層に塩化カルシウムを散布して機械転圧したことで、主柱の防腐効果が期待できる。
 
(2)第1・70号住居修理工事について
垂木尻付近の防水シートの一部が切れていた要因は、基礎コンクリートのアルカリ成分の可能性がある。今後予定している第1号住居(複製)の修理では防水シートが垂木を設置する基礎コンクリートに直接触れないようにする施工法を検討すべきである。ウレタン系発泡材を挟めば、アルカリ成分は上がらない。
 
 
第5回専門家会議において、平成26年度に予定している第1号住居(複製)の屋根土を赤土主体に変更することが決定されました。これに基づき、平成25年度に土屋根の試験体を設置し、その暴露試験の経過観察結果を基に、資材・配合比・施工法を決定することとしています。その仕様決定に向けた検討を行い、次の指導を得ました。
 
試験の目的を明確化し、設定を最適化させないと、結果を有効活用できなくなる恐れがある。評価方法の設定も必要である。
屋根土の被せ方の条件設定を行わないと、後年度に刊行する事業報告書で試験の仕様と結果を提示しても、他自治体の参考資料にはならない。
 
 
平成27年度までの修理事業を通して得た知見から、事業報告書では土屋根竪穴住居の整備(改修)の標準的な設計および仕様の一つを提示し、全国の自治体等の参考資料に供することを目指しています。その取りまとめに向けた方針の検討を開始し、次の意見を得ました。
 
北代遺跡での試験結果を踏まえ、復元住居の整備(改修)に際して行うべき試験を提示し、試験評価を行い、そのうえで工事仕様および設計を考えていく必要性を提案することになるのではないか。
地域によって劣化に対する環境要因が異なり、復元建物の個性もあるので、どこまで一般化してよいか検討する必要がある。