シリーズ縄文講座(16)
春日遺跡の打製石斧について
 
神通峡入口の富山市笹津に春日温泉があります。そこは縄文時代中期の春日遺跡です。遺跡中央には谷地があり、そこには「殿様清水」という湧水があります。
この西側の高台の1か所から、亀田正夫氏によって40本余りの打製石斧がまとまって採集されました。
この打製石斧はすべてが完成品で、約6割が使用中に折れて捨てられたものです。完全な形で残っているものも刃先が摩滅しており、かなり使用されたことを物語っています。
打製石斧は、地面を掘り起こすための道具とされ、現代のスコップや鍬に相当します。縄文人は、この打製石斧で竪穴住居を掘って作ったほか、農耕の際に使用したという説もあります。
麻柄一志氏(魚津市教委)は、打製石斧だけが出土する遺跡の立地や出土状況を分析し、ワラビやクズなどの根茎類を打製石斧で掘っていたのではないかという説を出されました。これらの根茎類はデンプン質を豊富に含んでおり、食糧資源として重要だったと考えられます。多量に採集しても、数年後には再び同じ場所で繁茂する性質があり、そのような場所を数ヶ所確保できれば、毎年採集が可能になるわけです。
春日遺跡はかなり広い面積の遺跡ですが、打製石斧の採集された地点では打製石斧以外にはほどんど遺物は出土していません。このことから、打製石斧の採集された地点は根茎類を掘り取る場所であった可能性が高いといえます。
 
参考文献
麻柄一志 2003年 「打製石斧が使われた場所」『同志社大学考古学シリーズ[ 考古学に学ぶ(U)』