薬師岳やくしだけ山頂遺跡

山岳信仰の遺跡
(大山地域)
薬師岳は富山市南東部の有峰に位置する標高2926mの山です。現在は「百名山」の一つに選ばれ、多くの登山者で賑わっています。その一方で古くから山岳信仰の対象とされ、修行や信仰のために人々が登拝しました。本遺跡は富山市で最高所にある遺跡です。 
薬師岳山頂
薬師岳山頂
明徳元(1390)年、ふもとの有峰村の職人ミザの松が薬師如来に導かれて登頂、開山したと伝えます。以来、有峰村との関係は深く、毎年旧暦6月5日には15歳から60歳までの男子が総出で登頂しました(有峰村は大正9年に解村、昭和36年ダム建設により水没)。
平成22年度に山頂の分布調査を行ったところ、信仰をものがたる複数の遺物を採集しました。多いのは鉄板を剣形に切り抜いた奉納剣で、登拝した人々が奉納ほうのうしました。奉納剣は、他の山ではほとんどみられない薬師岳信仰に特徴的な遺物です。このほか昔の山頂ほこらに使われていた釘、刀子とうす、銅製品の破片、青磁せいじ等が見つかりました。過去の調査では雁股鏃かりまたぞく和鏡わきょう、修験者が護摩ごまを焚くときに使う火打鎌ひうちがまも採集されており、信仰や修行の様子を伝えています。
山頂で採集した遺物
山頂で採集した遺物
山頂の西斜面には昔の祠に使われていた木材が散乱しています。山頂の祠は江戸時代以降、少なくとも5期の変遷があり、この木材は江戸から明治時代に建っていた祠材と推測されます。
同じ立山連峰に属する剣岳つるぎだけ大日岳だいにちだけなどでも信仰をものがたる遺物があります。3000m級の山々に抱かれた富山県ならではの遺跡といえます。
 
 
参考文献
 
広瀬 誠 1977 「薬師岳の信仰と有峰びと」『山岳宗教史研究叢書10 白山・立山と北陸修験道』
名著出版
 
佐伯哲也 2010 「薬師岳山頂の信仰遺跡について」『大山の歴史と民俗』第13号
大山歴史民俗研究会
 
古川知明 2012 「薬師岳山頂の奉賽品について」『大境』第31号 富山考古学会
 
野垣好史 2012 「薬師岳分布調査報告」『富山市考古資料館報』49 富山市考古資料館