富山城の整形技術
(5) 道具の工夫

整形に用いる道具には、ノミ・ゲンノウ・オシキリなど直接石を加工する道具のほか、ノミを叩く金槌など補助的な道具があります。

特に整形の主要工具であるノミは、石工が最も気を使う道具であり、一人で数種類のノミを保有し、用途に応じて使い分けています。

その規格や形状には定型的なものはなく、石工個人の特性によって異なっています。石工は、手に合った太さや長さにするため、自分で小鍛冶を行い、製作や研ぎ上げなど日常の手入れを行ってきました。このため、石工は小鍛冶の知識を持ち、フイゴなど鍛冶道具一式を携帯して石割りに臨んだのです。

ノミの先端は尖っていますが、鉛筆のように整った三角錐状になっているわけではありません。先端側から見ると、先端の切先には僅かに直線的になった部分がみえます。この直線的な部分を縦方向にして使用した場合は、右または左へはつられた小剥片が飛ばされ、横方向にして使用した場合には上または下方向へ剥片が飛ばされます。したがってこの刃先の方向とノミを当てる角度と力加減の3要素調整することによって、剥ぎ取りたい部分と飛ばしたい方向が決定されます。この調整を最も丹念に行わなければならないのが、角石の稜部の製作です。
石ノミ
石ノミ
石ノミの先端
石ノミの先端
オシキリは、近代以降に発明されたものといわれます。ゲンノウでは小さく割り取る場合に重く扱いにくく、打ち下ろした石面の打点部分は円く窪むため、直線的に整えるのが困難です。オシキリはそれを改良して軽量化し、先端を長方形にすることで打点の窪みを消し、直線的な稜を作り易くする工夫がされた道具です。

現代では自分で道具を製作する石工はほとんどいなくなりました。しかし、自分に合った改良や研磨など日常の手入れは欠かしません。そこに職人気質がみえるのです。
(古川)