富山藩主 前田家墓所 長岡御廟所の調査
7.墓所石造物の帯磁率調査
(4)考察
2.笏谷石について
 
藩主墓基壇縁石・拝所敷石・拝所までの参道に使われた笏谷石切石の総数は、数えていませんが、相当量に上ります。
笏谷石の富山への搬入は古く、16世紀中頃から始まります。
  「尺六」(長3尺、幅1尺、厚6寸)
  「尺二」(長3尺、幅1.2尺、厚3.5寸)
  「五寸板」(長3尺、幅1.5尺、厚3.5寸)
等が知られています。これは、寛永3年(1626)頃、福井藩が三国湊みくにみなとから積み出す石材の大きさに規制をかけ、長3尺のものに限定したためとされています。
   
初代墓から九代墓の基壇切石のうち、この3尺物は、二代墓なし、八代墓が最多32個、平均は12.8個です。割合は、八代墓が76%、それ以外は50%以下です。

3尺物の使用状況
このうち「五寸板」は初代墓に1割程度存在し、「尺二」は三代以降に多く使われています。
 
全体についてみると、長さは最大4.6尺、最小1.2尺です。初代・二代では、長さ3.2尺を超えるものが多く存在し、特に二代ではその割合が86%と高い。三代以降は長さ3.2尺を超えるものがなく、平均2.84尺から3尺です。
3尺前後のものは、前後2寸の範囲に収まるものが多く、三代以降は83%から100%です。
 
尺長 初代 二代 三代 四代 五代 六代 七代 八代 九代
<2.8 20 3 0 2 5 8 1 1 9
2.8〜3 6 0 10 13 10 4 15 5 5
3 10 0 15 9 7 21 12 32 9
3〜3.2 5 2 14 20 15 14 5 4 20
3.2< 7 30 0 0 0 0 0 0 0
48 35 39 44 37 47 33 42 43
寸法別切石数
 
基壇の隅角は、初代・二代では、平石を合わせるが、三代以降は隅角部専用の直角特殊品(以下「隅角石」と呼ぶ)を置くようになります。この隅角石は、一辺が3尺前後、残る一辺がその半分の長さとなるL字形の石です。隅角石は、製作や運搬は困難ですが、隅角に小口が見えず、見栄えがよいといったプラスの視覚的効果があります。
 
以上のことから、笏谷石切石は、二代と三代との間で大きく様相が変化することがわかりました。初代・二代では3尺物がわずかで、それ以上4.6尺までの長尺物が多いのに対し、三代以降では「尺二」にほぼ統一され、新たに隅角石が登場します。
 
福井藩が長さを3尺に規制した寛永3年頃は、二代と三代との間の画期の年代とは一致せず、100年前後の差があります。初代墓造立の延宝3年にすでに規制が始まっていたにもかかわらず、規格外品が持ち込まれたということは、「富山藩主墓」という特殊な理由のためと推測されます。
(古川)