富山藩主 前田家墓所 長岡御廟所の調査
7.墓所石造物の帯磁率調査
(4)考察
1.花崗岩の種類・産地について
 
国内の花崗岩は、磁性の小さいチタン鉄鉱系と、磁性の大きい磁鉄鉱系に大別されます。
富山県は飛騨帯にあって、磁鉄鉱系の地域に含まれます。早月川花崗岩は県内の代表的なものです。
近年の研究成果によれば、磁鉄鉱系とチタン鉄鉱系の分布は入り組んだ状況であり、また境界値についても諸説がありますが、ここでは境界値を5×10-3SIとしました。
 
計測結果から見ると、富山藩主墓所で使われた花崗岩はチタン鉄鉱系であり、磁鉄鉱系は墓前燈籠と家臣寄進燈籠のごく一部(全体の0.9%)に使われただけでした。
帯磁率ヒストグラムから以下のことがわかりました。
 
藩主墓塔身は1×10-3SI以上2未満にピークがあります。
墓前燈籠・家臣寄進燈籠は、八代を境に傾向が異なり、初代から七代は、1以上3未満にピークがあり、九代以降は0.1以上1未満にピークがあります。十一代は、墓前燈籠は七代以前と同じ、家臣寄進燈籠は3以上4未満の新しい石材が加わります。七代と八代の間の大きな画期は、採石地あるいは買い付け先の変化を反映したと推定されます。
 
 
墓前燈籠と家臣寄進燈籠において初代から十代までヒストグラムがほぼ同じであることは、両者の採石地が同じであったことを意味しています。
 
 
本墓所の花崗岩の肉眼観察では、カリ長石が薄紅色で、いわゆる「桜御影さくらみかげ」が多くあります。その代表的な石は岡山県の万成まんなり石です。また黄色いものは、瀬戸内の犬島いぬじま石(兵庫県)に似ています。これらは瀬戸内地域を代表するチタン鉄鉱系の花崗岩であり、本墓所では瀬戸内地域の花崗岩を継続して使っていたと推定されます。
 
県内には早月川花崗岩というブランド石があるにもかかわらず、なぜ他地域の花崗岩を搬入したのでしょうか。
一つには、藩主墓・墓前燈籠・家臣寄進燈籠を一括して発注すると、きわめて多量となり、在地石工だけでは対応しきれないという問題があったかもしれません。
また、西日本航路の発達により、瀬戸内地域の花崗岩が調達しやすかったことも背景にあると思われます。
墓域内には無銘の竿が残っていることから、刻銘作業は富山で行ったと推定されます。
(古川)