シリーズ縄文講座(19)
縄文時代の赤色顔料せきしょくがんりょう
 
赤色顔料の種類
古来から用いられてきた赤色顔料には「朱(HgS・辰砂)しんしゃ」、「ベンガラ(α−Fe2O3・せき鉄鉱)てっこう」、「鉛丹えんたん(Pb3O4・四三酸化鉛(しさんさんかなまり))」の3種類があります。
 
蛍光けいこうX線分析
蛍光X線分析とは、試料表面にX線を照射し、含まれている元素ごとに固有の波長を持った蛍光X線を発生させ、これを分析して元素の種類を判断し、顔料の種類を推定する分析法です。
富山市域の縄文時代遺跡において、赤色顔料の分析が行われた遺跡名、およびその結果を表1に示します。
     
縄文土器(ベンガラ)
(浜黒崎野田・平榎遺跡)
  縄文土器(ベンガラ)
(花切西遺跡)
  縄文土器(朱)
(史跡北代遺跡)
  石器(磨石・朱)
(史跡北代遺跡)
 
赤色顔料「ベンガラ」
分析の結果、浜黒崎野田はまくろさきのだ平榎ひらえのき遺跡と花切西はなきりにし遺跡の縄文土器に使用された赤色顔料は、鉄(Fe)を主成分とした「ベンガラ」であることが分かりました(図1)。他にも、富山市百塚住吉ひゃくづかすみよし遺跡・百塚ひゃくづか遺跡で出土した縄文土器・土偶は、蛍光X線分析の結果、すべてベンガラと報告されています(秋葉2009)。
ベンガラは、入手が比較的容易なため、縄文人はマツリなどの場で用いる土器に塗布するなど、多く利用してきました。

図1.ベンガラのスペクトル図1)
(花切西遺跡、縄文土器)
   
赤色顔料「朱」
北代遺跡の縄文土器、磨石すりいしに使用されていた赤色顔料は、水銀(Hg)を主成分した「朱」であることが分かりました(図2)。北代遺跡では、ベンガラを塗布した縄文土器も出土していることから、「朱」と「ベンガラ」を使い分けて使用していた可能性があります。他に、富山県域では朝日町あさひまちさかいA遺跡で朱が塗布された土器や、朱原料をすりつぶした石器が出土しています(市毛1992)。
図2.朱のスペクトル図
(史跡北代遺跡、縄文土器)
まとめ
朱が塗布された土器と共に、朱の精製道具(磨石)が出土した遺跡では、遺跡内で朱を精製し、土器などに塗布していたと考えられます。
このような史跡北代遺跡と境A遺跡では精製された朱原料の産地が不明で、その解明は今後の課題です。人々が交流するなかで、朱原料も流通していたと考えられます。
朱原料の産地やその周辺における朱関連資料出土遺跡の詳細を検討することは、縄文人の交流の実態を解明する一つの手がかりになります(坂口2010)。
シリーズ縄文講座(4)縄文人の色彩【赤色】
 
参考文献
市毛 勲 1992 「3 境A遺跡出土縄文土器付着赤色顔料について」『北陸自動車道遺跡調査報告−朝日町編7− 境A遺跡 総括編』富山県教育委員会
秋葉保香 2009 「第9節 百塚住吉・百塚遺跡出土土器・土製品表面の赤色顔料について」『富山市百塚住吉遺跡 百塚住吉B遺跡 百塚遺跡発掘調査報告書』富山市教育委員会
坂口諒子 2010 「富山市域における縄文時代の赤色顔料について」『富山市考古資料館紀要 第29号』富山市考古資料館