シリーズ縄文講座(4)
縄文人の色彩【赤色】
 
現代の生活にはさまざまな色があふれています。色の利用は個人的な好き嫌いもありますが、その視覚効果が見る人に与えるイメージを活用したものもあります。道路では注意を喚起する配色の信号や交通標識、病院やホテルでは精神を高揚・沈静させるカラーセラピーを利用した色彩配置が用いられています。

縄文時代にはどんな色が使われているのでしょうか。遺跡からの出土品からは赤・黒・緑・白が挙げられます。これらの色は顔料(赤はベンガラ・朱、黒は木炭・煤、白は粘土)を直接または漆液に混ぜて彩色したり、色目の石(赤は鉄石英や玉髄、緑はヒスイ・蛇紋岩など)を磨いたり、より鮮やかに見えるようにして使われています。

このなかでも赤色は特に多用された色で、入手・使用も容易であったことから土器・土偶・装飾品(耳飾りなど)・石器・骨角器など、さまざまなものに使われています。
北代遺跡では赤色彩色された有孔鍔付土器が竪穴住居のなかからみつかりました。土器の外側全体と内側の口縁部・底の中央部など床に置いたときに見える部分に赤色顔料(ベンガラ)が塗られていた跡が残っています。この土器は口に皮をはって太鼓として使ったという説と、果実を入れて発酵させた酒作りの容器として使ったという説があります。いずれにしても、赤く塗られた土器は縄文人の暮らしを美しく彩ったのでしょう。
 
赤く塗られていた有孔鍔付土器   緑がきれいなヒスイの大珠
【北代遺跡出土】
では、縄文人はなぜ赤色を多用したのでしょうか。赤色は色彩学では「興奮色」に分類され、自然界ではとりわけ目立つ色です。朝夕の太陽や空の色、炎の色、血液の色、鳥のトサカの色、昆虫の危険色に見られ、「日・火」などの生のイメージと「注意・危険」などの死のイメージを同時に内包することから、死と再生を意味しています。縄文人は赤を生命の力を象徴する色として用いたのでしょうか、土偶や土面など祭祀に使う道具が赤く塗られることが多く、墓の底に赤色顔料がまかれるなど埋葬施設への利用も見つかっています。
また赤色は、縄文人が装飾品として用いたヒスイに代表される緑色とは補色(正反対の色)の関係にあり、同時に用いることで互いをより引き立たせる効果があります。緑色は自然の豊さを示す色であり、生命力を示す赤色とともに縄文人の精神世界を彩ったのでしょう。