修理工事
 
第13号住居(複製)の土間および壁面改修と屋根復元、第1号住居(複製)の屋根解体、高床倉庫の梯子材取替えを行いました。
 
第13号住居(複製)修理工事での改良点
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北代縄文通信 第34号(PDF、382KB)
@ 屋根
粗朶木(そだぎ)を逆葺きし、防水シートに加えて垂木尻から住居周囲の透水管まで防湿シートを敷設することで、屋根土内に浸透した水の排水機能を向上させました。
防水シート(REVO3)は有限会社チャンピオン化成(栃木県栃木市)から提供していただきました。
   
A 屋内環境
屋根と腰壁に内装仕上用天然ゼオライト塗壁材(ゼオブレース)を塗布した木毛セメント板を敷設しました。土間と腰壁下に防湿シートを敷設後、土間を叩くことで、断熱機能および調湿機能を向上させました。
カナツ技建工業株式会社(島根県松江市)には、土間タタキ実験(赤土、消石灰、砂、鹿沼土の配合比および施工方法の検討)を行っていただきました。また、色調整済の内装仕上用天然ゼオライト塗壁材を提供していただきました。
   
B 小屋組
丸太材すべてに木材保存剤を塗布し、土中埋設部分は防湿シート等で養生して耐久性を向上させました。
   
C 周辺地形
透水管周りを砂利として上面を浅く窪ませました。
土壌化した造成盛土表層を漉き取って、水勾配を設け、表面排水機能を向上させました。
   
   
高床倉庫の梯子材取替え
高床倉庫
修理後の高床倉庫
(平成24年3月)
平成22年度に行った木材劣化診断で、早期に取替える必要性を指摘されていた梯子材を新材と取替えました。新材の地下埋設部分には防水シートを巻きつけて、地下水等が材に直接触れないよう対策を講じました。
 
第13号住居(複製)および第1号住居(複製)ではクリ丸太材(垂木)の地下埋設部分が腐朽して先細りしていましたが、高床倉庫の梯子材の地下埋設部分は腐朽しておらず、ほぼ原状を保っていました。第13号住居(複製)および第1号住居(複製)では黒ボク土に埋設していましたが、高床倉庫の梯子材は山砂に埋設していたので、土質や保水量の差が要因と考えられます。
 
 
 
 
 
木材劣化診断
 
平成15年度に市独自の修理を行った第13号住居(土屋根竪穴住居)を対象として、専門家(木材劣化診断士)による一次診断(視診、触診、打診、刺突し診)を行いました。
 
第13号住居の
診断結果
   
@ 小屋組部分(垂木、小舞)は含水率が低く、腐朽リスクは小さい。
   
A 6本すべての主柱下部表面に進行性の腐朽が認められ、うち1本は断面積の50%以上が欠損または耐力低下しており、早期の交換または補修が必要。
   
 
 
 
 
 
専門家会議(屋根検討部会)
(平成23年4月25日)
 
建築環境工学、鉱物科学、考古学の専門家により、第13号住居(複製)修理工事の設計および仕様を検討しました。
 
具体的には、@土間タタキの材料配合と工法、A屋根防水シートの敷設工法、B土間と腰壁の防湿工法、C透水管周囲の改良、D屋根下地(樹皮)と屋根土の葺き方の検討結果を設計および仕様に反映させました。
 
 
 
 
 
第3回専門家会議
(平成23年9月28日)
 
文化庁文化財部記念物課文化財調査官同席の下、6名の専門家で第13号住居(複製)の工事現場等を視察し、工法の確認や他の土屋根竪穴住居、茅葺高床倉庫の問題点を洗い出しました。
なお、文化財調査官は挨拶のなかで次のように述べられました。
 
「竪穴住居は、展示物としてスクラップ・アンド・ビルドで整備されていますが、日本には木材を大切にする文化があると思います。それが、富山市の事業を通して、展示物として活用するだけでなく、文化財として取り扱える素地ができれば、他の史跡にも良い影響を与えるではないかと考えています。」
 
(1)広場の排水機能について
土屋根竪穴住居、茅葺高床倉庫の周りに巡らせた地下の透水管周囲が目詰まりしやすい砂だったこと、さらにオープン後に造成盛土表面が厚さ約5cmで土壌化したことから、透水管がほぼ機能不全に陥っていることが指摘されました。これにより、土屋根竪穴住居と茅葺高床倉庫付近の地下に水分が留まり、復元建物に悪影響を及ぼす一因になっていることが明らかになりました。
 
当面の改善策として、土屋根竪穴住居の土屋根に浸透した雨水を透水管経由で効果的に排水すること、透水管周囲の砂を砂利と入れ替えることで機能強化を図り、管上部の土壌も漉き取ることとしました。
 
 
(2)木材腐朽の要因について
藤井義久氏(林産加工学)による第13号住居(複製)の解体材の分析の結果、木材腐朽菌(担子菌)が広場内に存在し、主柱の根元には腐朽に加えてオオゾウムシによる食害が生じていることが明らかになりました。これを受けて、次の指導および助言をいただきました。
 
主柱が細くなると、根元で折れて屋根が歪むため、屋根構造の点で問題になる。
外見上かなり傷んでいるように見える材も強度上はそれほど傷んでいない。
これまでは腐れ代を確保するために材を太くして対応してきたが、木材の劣化対策がきちんとなされれば、腐れ代の確保にこだわる必要はない。
局所的あるいは構造上重要なところが傷むことは問題であり、その点は慎重に検討する必要がある。 
 
木部の耐久性向上には、次の3点が重要である。@劣化外力を正しく認識し、劣化外力ごとの対策を考え、効果を検証しながら進める。A耐用年限を設定し、設計と施工を最適化して維持管理における健全性と安全性を担保し、局所的に重大な劣化が進行するのを防ぐため、取替不能箇所はあらかじめ対策を講じる。B地下と地上の排水対策を融合して最適なものにする。
 
 
 
 
 
第4回専門家会議
(平成24年3月6日)
 
6名の専門家で修理工事を終えた第13号住居(複製)を視察し、現時点での評価などを行いました。
 
(1)第13号住居(複製)について
@全体評価
修理前と比べて、土間と腰壁は格段に良くなった。
出入口の階段部分の凍害対策が今後の課題で、第1号住居(複製)の修理では断熱効果のある木毛セメント板を敷設すべきである。
燻し作業による除湿および防虫対策を1年間休止し、温湿度変化と木材表面含水率を経過観察すべき。万能の劣化対策はないので、2年はじっくり経過観察することが重要である。効果を確認できれば、土屋根竪穴住居の設計および仕様作成に役立つ。
 
A木材  
表面含水率が30%を超えると問題になるが、現状はまったく問題ない。
結露が発生する季節や時間帯のほか、土間の安定後に木材が受けるストレスの内容を正確に把握する必要がある。
 
B日常管理
台風などの災害時は出入口からの浸水対策が必要である。防湿シートを敷設したことで、一度水が溜まると地下に浸透しないことを十分認識して日常管理することが重要である。
   
   
(2)第1号住居、第13号住居の温湿度計測結果について
宮野秋彦氏(建築環境工学)による分析の結果、土間タタキ実施済の第1号住居の温湿度の経年変化から、土間タタキの効果が表れるまで2年かかることが明らかになりました。
 
土間タタキ2年後の第1号住居は、土間タタキ未実施の第13号住居と比べて相対湿度が約10%低減しています。
 
なお、第13号住居(複製)の土間タタキは、第1号住居の配合比を参考として多くの実験を重ね(島根県松江市のカナツ技建工業株式会社にご協力いただきました)、導き出した最適な配合比で施工しました。